猫 1

子猫発見。

あ、逃げないでね?

じっとしていてくれる?

そうそう。私何もしないから。

可愛く撮ってあげるから、ね?

うん、OK!

その表情、いいわ〜、プリティ!

どうも、ありがとう。

また、よろしくね。

ばいばい。


  「 雨宿り 」


 いきなり降り出した大粒の雨。
 朝の天気予報では、夜まで持つって言ってたのに、降り出してしまった。全く当てにならない。ああいう外れてもいいものは、信じてはいけないのだろうか?まあ、予測であって、確定ではないものだし。一種のばくちみたいなものだろうか……。どうせなら、お天気お姉さん、当たった日と外した日を確立で求めてみる?

 あまり腹立たしかったものだから、天気予報に突っ込みを入れてしまった。
 ああ、困った。
 夕方には帰るつもりだったから、傘も持ってきていないし。
 私は公園の入り口すぐ横手にある大きな木の下に逃げ込んだ。
 止むかどうかはわからないけれど、小ぶりになるまで待とう……。

 湿気を含んだ空気は、気分を下降させる。
 濡れてしまったシャツが肌に吸い付いて、気持ちが悪い。
 その上、体温も奪うのか身体が冷えてくる。
 私は震えながら、ハンカチを取り出して髪や手などを拭き、水滴を払う。

 ニャー。

 か細い声がした。
 どこから聞こえてくるのだろうか?
 きょろきょろと見回して、その声の主を捜す。
 しかし、見あたらない。

 ニャー。

 どこ?どこから?

 やがて、緑に埋もれた茂みから茶色いしっぽが覗いているのを発見した。
 私はしゃがみこんで、その主の姿を見ようと茂みの奥に顔を寄せる。
 そこには子猫がいた。
 茶色のちんまりした猫は身体を丸めて自分を警戒心露に見つめている。
 視線を外したら負け?っていうのだろうか。
 自分の敵意がないことを伝えるにはどうしたらいいのだろうか?
 しばし見詰め合い、時が止まる。

 子猫の方が先客だしな……。
 私は吐息を付いて、「お邪魔してます」と一言断った。
 「しばらく、雨宿りさせてね?」
 わかんなくても礼儀として当然だろうと、言っておくことにする。
 人なれない猫には、無闇に触ってはいけないような気がする。これで逃げ出したら、私が追い出すことになる。それは避けたかった。なにせ、私の方が後から着たのだし……。


 しとしと。
 雨音だけがこの世界を支配する。
 こんな場所にいると、世界から隔離されたみたいな間隔を受ける。


 ポタン。
 緑深い色の葉から滴が零れ落ちる。
 弾けて飛び散る水滴。
 

 天の恵み。
 自分のとっては、家に帰れない困ったこと。
 でも、この雨のおかげで生きている。
 自分はもちろんのこと、この大木も茂る緑も、花も鳥も生き物も。そして、この子猫も。
 そう気が付けば、この時間も捨てたものではないような。

 ちろりと子猫を見ると、警戒しているのか、いないのか。目を瞑り、丸めた身体に頭を乗せるようにしてただ、いる。
 この出会いも一時のもの。
 もう、逢うことはないかもしれない。
 それでも、心がふわりと温かい。

 ねえ、もしまた出会えたら、「こんにちは」って声をかけるよ。
 覚えていなくてもいい。何だ、こいつって顔で見てもいい。
 自己満足だから。
 けど、そんな時が再び持てたら、それだけでどれだけ楽しいかしれない。
 元気な姿を見られたら。
 きっと私も笑顔になるよ。


 雨が降る。
 恵みの雨が。
 天から落ちてくる水滴は、音を奏でながら地上に降りしきる。

 止まない空を仰ぎ見る。
 まだしばらくは、このままだろう。
 

 雨の日のささやかな出来事。こんな日も、たまにはいい。


       (おわり)

 




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